日本における急性A型解離の最近の手術成績

Yutaka Okita et al. “Current status of open surgery for acute type A aortic dissection in Japan” J Thorac Cardiovasc Surg S0022-5223(20)33045-2, 2020

最近、JTCSに上記の論文が投稿され、現在の日本のA型解離手術の実情が分かる内容だったので、ご紹介したいと思います。

対象患者と患者背景

JCVSDに登録された2013年~2018年の間にopen surgeryを施行した急性A型解離患者29486人が対象。(左室形成術や先天性心疾患手術、不整脈手術などを併施した例や血管内治療例は除外)

6年間で患者数は増加傾向。→早期発見できるようになったことが影響しているかも?

  • 男女差はほとんどなし
  • 平均年齢59.8±14.2歳
  • 結合組織疾患患者は1.2%

術前状態

  • 13%が術前に意識変容あり
  • 12%が心原性ショック
  • 11%がmoderate~severe AR
  • 2.3%が心筋梗塞
  • malperfusionに関してはデータなし。

手術

78.7%が即座に緊急手術を施行。

術式

  • 上行置換が69.3%
  • 弓部置換が29.3% (Frozen Elephant Trunkは全患者の12.2%で使用)
  • AVRは4.7%で施行。
  • Bentallは3.2%で施行。
  • 弁形成は1.5%で施行。
  • STJ fixationは2.3%で施行。
  • 自己弁温存大動脈基部置換は0.6%で施行。

人工心肺

  • ACPが73.5%、DHCA+RCPが17.1%、DHCAのみが9.4%
  • CPB時間は平均216±90.1分
  • 心停止時間は平均132.1±59.8分
  • 最低体温は24.6±3.2℃

予後

死亡率

  • 30日死亡率は9.2%
  • 院内死亡率は11.0%

合併症

  • 脳梗塞(11.5%)
  • 一過性の神経障害(3.9%)
  • 新規の透析導入(7.3%)
  • 脊髄障害(3.9%)
  • 長期人工呼吸器装着(15%)

死亡・合併症の傾向

年齢による傾向

高齢であることは、院内死亡、新規の透析導入、長期の人工呼吸器装着のリスクだが、脳梗塞や脊髄障害のリスクにはならない。

術式による傾向

  • 上行置換のみだと透析導入が少ない。
  • 上行置換と弓部置換での脳梗塞、脊髄障害、長期人工呼吸器装着に差がない。
  • FET例で脊髄障害が多い。→Adamkiewicz動脈閉塞+胸部下行の偽腔内血栓拡大による?
shingari
shingari
  • 低リスクである
  • entryが弓部にある
  • 弓部分枝が解離している
  • 結合組織疾患がある

上記の場合に弓部置換が考慮されます。

  • 弁置換やBentall施行患者の早期死亡率がより高い。
  • 弁置換、Bentall、弁形成施行患者で人工呼吸器装着期間が長期化しやすい。
  • Bentall施行患者で透析導入が多い。

脳保護による傾向

  • 脳保護法による早期死亡率の差はなし。
  • DHCA+RCPでは、脳梗塞や長期人工呼吸器装着が少ない。
  • ACPでは、脊髄障害、透析導入が高い。

→DHCA+RCP患者の方がシンプルな症例が多いからかも?

人工心肺による傾向

  • CPB時間(≧4.5時間)、心停止時間(≧3時間)が長いとoutcome(院内死亡、脳梗塞、長期人工呼吸器装着、透析導入)が悪い。
  • Deep hypothermia(<20℃)、Mild hypothermia(>30℃)で院内死亡率が高いが、>30℃の患者では脳梗塞や長期人工呼吸器装着が少ない。

コメント

タイトルとURLをコピーしました