ECMOについて

昨年、世界を襲った新型コロナウイルス感染によって、ECMOエクモという言葉をニュースなどでもよく見かけるようになりました。

今回は、そのECMOについて説明していきたいと思います。

ECMOって何?

ECMOというのは、「Extracorporeal membrane oxygenation」の略です。日本語訳しますと、「体外式膜型人工肺」といいます。

心臓や肺の機能が高度に低下した場合に、それらの臓器の代わりとなるべくして開発された装置のことです。

ECMOは、心臓血管外科手術時に用いる人工心肺装置から派生したものですので、まずその人工心肺装置から学んでいただけると理解がスムーズだと思います。

以前に「人工心肺装置について!」という記事を書かさせていただいておりますので、基本的な構造を知りたい方は、こちらから読んでいただけると幸いです。

心臓血管手術で用いる人工心肺装置(Cardiopulmonary bypass; CPB)とECMOの最も大きな違いは、「リザーバーの有無」です。

CPBは、患者さんから脱血した血液を一度、リザーバーに貯血し、その一部を患者さんに送血するのに対し、ECMOはリザーバーがなく、脱血した血液をそのまま送血しています。

ECMOには主に2種類ある

ECMOは、送血部位によって以下の2種類に分けられます。

VA-ECMO

VV-ECMO

最初のアルファベットは脱血場所を表しており、2番目のアルファベットは送血場所を表しています。

すなわち、VA-ECMOは、V(静脈系)から脱血し、A(動脈系)に送血するシステムであり、VV-ECMOは、V(静脈系)から脱血し、V(静脈系)に送血するシステムのことをいいます。

なお、VA-ECMOに関しては、本邦ではPercutaneous Cardiopulmonary System (PCPS)と呼ばれることも多いので、注意してください。

一般的には、VA-ECMOは大腿静脈を介して右心房まで挿入した長い脱血管から脱血し、大腿動脈に送血します。一方、VV-ECMOは大腿静脈を介して下大静脈まで挿入した長い脱血管から脱血し、右頚静脈を介して右心房まで挿入した送血管から送血します。

どのような患者さんに装着するの?

ECMOを装着する場面というのは、大まかに言うと以下の2つの場合になります。

生命維持ができないほどに...
1.心臓機能が著しく低下した場合
2.肺機能が著しく低下した場合

心臓機能が著しく低下した場合

心臓機能が著しく低下した場合、肺水腫などにより呼吸状態も著しく悪化します。その上、なんとか肺で酸素を血液内に取り込めたとしても、血液を全身へ送り出す能力が低下しているため、生命維持ができなくなります。

この場合には、VA-ECMO(=PCPS)が選択されます。

静脈から脱血した血液を、人工肺で酸素化し、動脈に送血をすることで、患者自身の心臓や肺が悪くても、全身の臓器に酸素を多く含んだ血液を送り届けることができます。

肺機能が著しく低下した場合

肺機能のみが著しく低下している場合には、VV-ECMOが選択されます。

静脈から脱血した血液を、人工肺で酸素化し、静脈に送血することで、酸素を多く含んだ血液が肺を通ることになります。そうなりますと、患者さんの弱った肺で酸素を取り込めなかったとしても、左心系には酸素が多く含む血液が流入してくることになります。心臓は問題ありませんので、血液は患者自身の心臓から拍出され、全身へ送られます。

VA-ECMO(=PCPS)は心臓を回復させる装置ではない

VA-ECMO(=PCPS)は、心臓機能が著しく低下した場合に用いる装置ですが、実は心臓に負担をかけてしまっているという事実があります。

大腿動脈に酸素化した血液を送血した場合、その血液は尾側から頭側に向けて勢いよく逆流していきます。一方で、脱血し損ねた血液や気管支循環系を介して左心房へ戻ってきた血液は、左心室から大動脈へ拍出されます。

つまり、VA-ECMOから送血された血液と、患者さんの心臓から拍出された血液が大動脈内で衝突するような状況になっているのです。

言い換えますと、患者さんの心臓から血液を拍出するには、VA-ECMOから送血された血液の勢いに打ち勝つ必要があり、常に強い後負荷(収縮時の負荷)がかかっている状況であるとも言えます。

ゆえに、VA-ECMOは生命維持装置ではありますが、心臓を回復させる装置ではないのです。

未分画ヘパリンは必要

心臓血管外科手術で用いる人工心肺装置(CPB)と同じく、回路のチューブや人工肺といった人工物と血液が接触した際に血液が固まってしまうため、ECMOでも血液をサラサラにする必要があります。

血液が固まってしまうと、回路が詰まってしまったり、血栓が全身に飛び散ってしまい、塞栓症を起こしてしまう可能性があるからです。

しかし、前述のようにCPBと異なり、ECMOにはリザーバーがありません。

ゆえに貯血しない分、CPBよりは血液は固まりにくい傾向にあります。ですので、サラサラの具合は、CPBよりも少し甘めになります。

具体的には、APTT 40-60秒、ACT 210~230秒(出血が懸念される場合は170~190秒)になるように未分画ヘパリンの量を調整します。

合併症について

ECMO装着中は、体内から血液を抜いて、酸素化して、体内に送り返すという極めて非生理的な循環となります。ゆえに、どんなに厳格に管理をしたとしても非常に多くの合併症が起こりえます。

それらの合併症は、

  • 送血管・脱血管に関する合併症
  • 血液に関する合併症
  • 人工肺に関する合併症

の3つに分けられます。

送血管・脱血管に関する合併症

ECMOを装着する際、VA-ECMOであれば、大腿静脈、大腿動脈を、VV-ECMOであれば、大腿静脈、頸静脈をそれぞれ穿刺し、脱血管、送血管を挿入します。

ECMOは体の全臓器の酸素需要をまかなうだけの血液を送血する必要があるため、必然的に脱血管、送血管は非常に太いものになります。具体的には、送血管は17~19Fr(直径6.3~7mm)、脱血管は23~27Fr(7.7~9mm)を用います。

血管損傷

送血管や脱血管を挿入する場面は、極めて緊急性が高い状況です。心臓マッサージが行われている中での挿入になることも珍しくはありません。そんな中で確実に目的の血管にカニューレを挿入しなければならないのですが、血管壁が脆弱であったり、狭窄が高度であったり、蛇行が強かったりした場合には、カニューレ挿入によって血管が損傷する可能性があります。

場合によっては、血管修復術を要する場合があります。

カニューレ先端位置不良による脱血不良

脱血管や送血管の先端が血管壁に先当たりしたりしますと、脱血不良が起こる可能性があります。

ECMOの稼働に支障が出る場合には、カニューレ先端位置の調整を行う必要があります。

下肢虚血

狭窄のある大腿動脈に太い送血管を挿入する場合には、送血管挿入部より末梢側の血流が不十分となり、下肢虚血が起こる可能性があります。

この場合には、末梢側に向けて大腿動脈に細いシースを留置し、送血回路の側枝をシースに接続して、下肢送血を行うことで対応します。

血液に関する合併症

出血

前述の通り、ECMOを装着する際には未分画ヘパリンによる抗凝固を行います。

しかし、抗凝固を行いますと、出血する危険性も格段に上がります。

特に、心臓マッサージを行った際に肋骨骨折や肺挫傷、肝損傷が起こり、それに伴う出血を抗凝固が助長してしまう可能性があります。

溶血

カニューレや回路内、人工肺などの異物反応やカニューレ先端不良による乱流、過陰圧などにより溶血や血小板・凝固因子の消費が起こり、全身炎症、貧血、出血傾向などが起きます。

これに対しては、必要に応じてカニューレ先端位置の調整や回路交換、輸血が必要となります。

回路閉塞・塞栓症

さらに、抗凝固が不十分であったり、特殊な血液疾患(抗リン脂質抗体症候群など)を有している場合には、回路内に血栓ができ、回路が閉塞したり、血栓が全身に飛散し、塞栓症を発症したりすることもあります。この場合には、回路交換が必要となります。

ヘパリン起因性血小板減少症(Heparin-induced thrombocytopenia; HIT)

稀ではありますが、ヘパリン投与によりヘパリン起因性血小板減少症(Heparin-induced thrombocytopenia; HIT)を発症する可能性もあります。

HITは、血小板から放出されたPlatelet factor 4 (PF4)という糖タンパクとヘパリンがくっついた複合体に対する異常な免疫反応であり、この免疫複合体により血小板が活性化し、様々な臓器で血栓症を発症し、血小板も消費されて著明に低下していくという病態のことをいいます。

人工肺に関する合併症

ECMOは、人工肺で血液中内に酸素を取り込んでいるわけですが、その酸素を取り込む能力が下がることがあります。この場合、酸素化されていない血液を動脈もしくは静脈に送血することになるため、ECMO本来の目的を果たせなくなる可能性があります。

その原因としては、

  • Wetウェット lungラング
  • 血漿Leakリーク

の2つが挙げられます。

Wet lungは、人工肺の中空糸の内側に結露が生じてしまう現象で、血漿Leakは、中空糸の内側から血漿成分が漏出してしまう現象のことを言います。

Wet lungは、1時間ごとに酸素をフラッシュし、結露を吹き飛ばすことで改善します。

一方で、血漿Leakは、酸素フラッシュでは改善せず、回路の交換を必要とします。

まとめ

★人工心肺装置(CPB)にはリザーバーがあるが、ECMOにはリザーバーがない

★心臓が悪ければVA-ECMO、肺が悪ければVV-ECMO

★VA-ECMOは心臓に負荷をかけている

★非生理的な循環であるゆえに、様々な合併症が起こりえる

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