血圧を診る
医療従事者の方の中には循環を診る際に、まず血圧を確認する方が多いのではないでしょうか。
今回は、その血圧について少し勉強してみたいと思います。
普段、測定する血圧には、以下の4種類があります。
- 収縮期血圧 (sBP)
- 拡張期血圧 (dBP)
- 平均血圧 (MAP)
- 脈圧
それぞれの意味と使い分けについて考えてみましょう。
収縮期血圧 (sBP)
“左心室がギュッと収縮するときの血圧”のことを収縮期血圧と言います。(いわゆる”上の血圧”)
収縮期血圧は、左心室から血液を拍出する際の負荷(=後負荷)に影響するとともに、血管の硬さ(特に大動脈の硬さ)にも影響されると言われています。
また、血圧の中で最も高い圧力になりますので、収縮期血圧が高いと出血などが助長されてしまう可能性があります。
ゆえに、収縮期血圧をコントロールすることは、左心室の後負荷と出血をコントロールすることにつながります。
拡張期血圧 (dBP)
“左心室がホワッと拡張したときの血圧”のことを”拡張期血圧”と言います。(いわゆる”下の血圧”)
心臓自体に血液を送っている血管を”冠動脈”といいますが、この冠動脈への血流は、拡張期血圧に大きく影響すると言われています。
なので、拡張期血圧をコントロールすることは、冠動脈血流をコントロールすることにつながります。
平均血圧 (MAP)
平均血圧は、収縮期血圧と拡張期血圧を時間的要素を含めて平均化した圧です。
実は、収縮期血圧とその圧波形の波長は、測定する場所によって異なっており、心臓より遠い部位ほど収縮期血圧は高く、波長は短くなります。
しかし、平均血圧は測定する場所による影響を受けないため、“臓器に流れている平均的な血圧(=臓器灌流圧)”を示していることになります。
すなわち、平均血圧を維持することは、臓器灌流圧を維持していることになります。
脈圧
脈圧=収縮期血圧ー拡張期血圧
で算出されます。
この圧が高いということは、収縮期血圧と拡張期血圧の差が大きいということになります。
この差が大きいことは、血管へのストレスが大きいことを表しています。拡張期が低い分、収縮期の血流に大きな加速がつくため、血管の内壁が流れに引き込まれる力(=ずり応力=Shear stress)が強くなります。
ゆえに、脈圧をコントロールすることは、血管へのストレスをコントロールすることになります。
循環管理の最重要ルール
血圧を左右するものとは、なんなのでしょうか。
この問いに答えるためには、ある3つのルールを知っておく必要があり、このルールは、循環管理を行う上で最も重要なルールといっても過言ではないと思います。
そのルールとは、
・平均血圧(MAP)=心拍出量(CO)×末梢血管抵抗(SVR) ・心拍出量(CO)=1回拍出量(SV)×心拍数(HR) ・1回拍出量(SV)は、①心特性、②前負荷、③後負荷により決定する
というものです。
例えば、心筋梗塞を発症した患者さんの場合、
心筋梗塞により心特性が下がる ⇒1回拍出量が下がる ⇒心拍出量を維持しようとして、心拍数を上げて代償しようとする ⇒1回拍出量の低下が著しく、結局心拍出量が下がる ⇒血圧を下げまいと、末梢血管抵抗を上げて代償しようとする ⇒1回拍出量の低下がさらに著しく、血圧が下がる
このように、人間の身体はある異常が起こるとそのダメージを最小限にしようと別の変化(代償変化)で対応しようとするのです。このことをホメオスタシスと言います。
ある異常が起こった際には、ダメージが即座に回復することは少なく、治るまでに少し時間を要することがほとんどです。
しかし、回復する前に代償変化が上手く働かなかったり、ダメージが大きすぎて最大限の代償変化でも対応できなかった場合には、循環が破綻し、患者さんが亡くなってしまいます。そのため、薬剤や循環サポートデバイスなどで代償反応の範囲を広げ、命をつなぎとめる必要があります。それが循環管理なのです。
ショックとは?
「ショック」という言葉をご存じでしょうか?
医療現場では、患者さんの循環が危機的な状況になっているときに「ショック状態だ!」といった感じで使います。
医療者がショックの患者さんに出会った時は、どうしてもその緊急性の高さから慌ててしまいがちですが、いかに冷静に適切な対応をしていくかが鍵だと言えます。
では、一体、どのような状態のことを「ショック」というのでしょうか。
ショックというのは、全身への組織灌流が著しく低下し、結果、十分なO2を末梢組織に送れなくなった状態のことをいいます。
つまりは、「循環悪化によってO2供給量<O2需要量になった状態」です。
・DO2=CaO2×CO
・CaO2=(1.34×Hb×SaO2)+(0.003×PaO2)
DO2:O2供給量、CaO2:血液中の酸素量、CO:心拍出量(1分間に心臓から出る血液量)、Hb:ヘモグロビン量、SaO2:動脈血酸素飽和度(酸素がくっついているHbの割合)、PaO2:動脈血酸素分圧
上の2つの式をみていただくと、Hb、SaO2、COが著明に下がったときにO2供給量(DO2)が大きく下がることが分かると思います。PaO2は×0.003されるため、十分無視できる程度まで値が小さくなりますので、O2供給量への影響は小さいと言えます。
これらのことから、ショックを離脱するためには、Hb、SaO2、COの3つの要素を改善させることとO2需要量を最低限に減らすことが重要だと言えます。
また、循環管理の最重要ルールとショックの定義を見比べていただくと、ショック≠低血圧であることは一目瞭然だと思います。
ショックの種類
ショックには、どのような種類があるのでしょうか。
この場合にも、
・平均血圧(MAP)=心拍出量(CO)×末梢血管抵抗(SVR) ・心拍出量(CO)=1回拍出量(SV)×心拍数(HR) ・1回拍出量(SV)は、①心特性、②前負荷、③後負荷により決定する
を覚えておくと、臨床現場でもスムーズに思い出すことができます。
- SVRが低下しすぎる病態 ⇒ 血液分布異常性ショック
- 心特性が低下しすぎる病態 ⇒ 心原性ショック
- 前負荷が低下しすぎる病態 ⇒ 循環血液量減少性ショック、閉塞性ショック
といった感じです。
循環を分析する
ショックの患者さんを診たときには、その原因を探すことが大切です。
原因が分かれば、それに対して迅速かつ適切な対応をとることができます。
原因を探すには、まず“循環を分析する”必要があります。
・平均血圧(MAP)=心拍出量(CO)×末梢血管抵抗(SVR)
・心拍出量(CO)=1回拍出量(SV)×心拍数(HR)
・1回拍出量(SV)は、①心特性、②前負荷、③後負荷により決定する
というルールに登場する項目を、
- 平均血圧 ⇒血圧計
- 心拍出量 ⇒Swan-Gantzカテーテル、心エコー
- 末梢血管抵抗 ⇒末梢冷感の有無、SVRIの測定
- 1回拍出量 ⇒心エコー
- 心拍数 ⇒モニター、心電図
- 心特性 ⇒頸静脈の観察、Swan-Gantzカテーテル、心エコー
- 前負荷 ⇒頸静脈の観察、心エコー、Swan-Gantzカテーテル、Flotrac、生食負荷テスト、下肢挙上テスト
- 後負荷 ⇒心エコー、末梢冷感の有無、SVRIの測定
のようにそれぞれ別々に評価していくのです。
こうすることで、いち早く循環の異常を発見し、是正することができます。
末梢組織の視点から循環を診る
前述した循環の最重要ルールはどちらかというと、心臓や血管の視点から循環を評価したものです。
一方で、末梢組織の視点から循環を評価することも大切です。
例えば、循環不全により
- 脳血流が低下すると ⇒ せん妄、失神、意識障害などの神経症状が出現
- 腎血流が低下すると ⇒ 尿量低下、BUNやCrが上昇 (いわゆる腎前性腎不全)
- 全身の血流が低下すると ⇒ 全身倦怠感出現、Lacが上昇、SvO2低下
といった感じです。
しかし、この視点から得た指標は「各臓器の予備能」が大きく影響することを忘れてはいけません。
具体的には、
「もともと腎臓が悪い患者さんは、循環がよくても尿量が増えにくく、循環のよい指標にならないかもしれない」
といったことです。
できるだけ多くのデータを集めておくことが重要
循環の評価には、たくさんの指標があり、いずれの指標も絶対的なものはありません。
信じていたはずのパラメーターが実はエラー表示されていたなんてことも珍しくありません。
そんな場合でも、患者さんの循環を適切に管理していく必要があるのです。
「できるだけ多くのデータを集めた上で、総合的に評価をしていく」
モヤッとする部分があるかもしれませんが、これが循環管理の実情であり、神髄であると言えます。
まとめ
★血圧には4種類あり、それぞれを意味を考えながら血圧を管理する
★「循環管理の最重要ルール」を意識する
★ショック≠低血圧
★できるだけ多くのデータを集めて総合的に評価をしていく
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