心臓血管外科手術後は、ほとんどの場合、気管挿管をされた状態でICUに入室します。
術直後だけでなく、数日間、呼吸状態が不安定であることも珍しくなく、それに対してのマネージメントが必要になってきます。
今回は、呼吸の評価について考えていきましょう。
酸素化と換気を分けて評価する
人間は呼吸をする際、体外から肺に空気を取り込んで、O2を吸収し、CO2を排出します。
呼吸に問題が生じる(=呼吸不全)と、O2の吸収ができなくなり、息が苦しくなります。
呼吸不全には、
- 1型:CO2排出が維持される
- 2型:CO2排出に問題がある(=換気不全)
があり、酸素化と換気をそれぞれ分けて考える必要があります。
酸素化を評価する
酸素化とは、肺でO2を取り込むことを言います。
この酸素化能力の良し悪しを判断する際によく用いられるのが、以下の3つです。
- SaO2
- SpO2
- PaO2
似たような響きのアルファベットですが、意味が異なるため、混乱しないように気を付けましょう。
SaO2
血液ガス分析の項目の中にSaO2という項目があります。
血液中には赤血球が流れており、その赤血球は、ヘモグロビン(Hb)と言われるO2を運ぶタンパクを持っています。そのHbの内、O2がくっついたHb(酸化Hb)の割合(%)のことをSaO2と言います。通常は、SaO2は≧90%のHbにO2がくっついているため、SaO2の正常値は≧90%です。
肺でO2が取り込まれると、O2はHbと多く結合するため、SaO2は上昇することになります。
SpO2
患者さんの指先や耳たぶにクリップのような機械が付いているのを見たことがありますでしょうか。あれが、パルスオキシメーターという機械です。
この機械は、物質が光を吸収する性質(吸光度)を利用しており、採血をしなくても、O2がくっついているHb(酸化Hb)とくっついていないHb(還元Hb)の割合を検出することができます。
ゆえに、通常、SpO2とSaO2は同じ値を示すことになります。
PaO2
PaO2は、動脈血中のO2の分圧(Torr)を示した血液ガス分析の項目であり、血漿中(赤血球などの血球以外の液体成分)に溶け込んだO2の量を示唆します。
肺でO2が取り込めていれば、動脈血中にO2が多く溶け込むため、PaO2は上がります。
O2投与を行っている場合には評価に注意!
前述のことをまとめてみると、SaO2とSpO2はHbにくっついたO2を見ているのに対し、PaO2は血液の液体成分に溶け込んだO2を見ているということになります。
しかし、いずれの項目もO2投与を行っている場合には、解釈に注意が必要です。
我々が評価したいのは、肺がどれだけO2を取り込めるかという能力です。
しかし、大量にO2投与すれば、肺の酸素化能力が低くても、HbにくっつくO2も血漿中に溶け込むO2も増えてしまいますよね。つまり、SaO2もSpO2もPaO2も“無駄に良い値”になってしまうのです。
これでは、本当の肺の酸素化能力が分からなくなってしまいます。
PaO2/FiO2 (=P/F)
ここで登場するのが、PaO2/FiO2(=P/F)です。
FiO2というのは、患者さんが吸っている気体のO2の割合(%)です。
PaO2=(肺の酸素化能力)×(患者さんが吸っているO2の量)ですので、これをFiO2で割ることで、患者さんが吸っているO2の量によらず、肺の酸素化能力を評価できるようになります。
試しに評価してみましょう。
A. FiO2=20%(室内空気)を吸っている患者さんのPaO2が100Torrだった。(P/F=500) B. FiO2=100%を吸っている患者さんのPaO2が100Torrだった。(P/F=100)
AもBもPaO2が100Torrであるため、血液中に溶け込んでいるO2量は同じということになります。
しかし、P/Fを比べてみますと、Aに比べてBはすこぶる低いことが分かります。
Aの患者さんは何も心配する必要がないのに対して、Bの患者さんの肺の酸素化能力は極めて低く、危機的であるため、何かしらの治療を開始する必要があるというわけです。
ですので、PaO2を評価する際には、採血時のFiO2を必ずチェックしましょうね。
換気を評価する
換気とは、肺でCO2を排出することを言います。
この換気能力を判断する際によく用いられるのが、以下の2つです。
- PaCO2
- EtCO2
PaCO2
PaCO2は、動脈血中のCO2の分圧(Torr)のことです。(正常値:35~45Torr)
換気不全があると、CO2を体外に排出する能力が低くなりますから、体内にCO2が貯留していくことになります。
EtCO2
EtCO2は、人工呼吸器回路と気管チューブの間にカプノメーターを接続することで表示されます。
人間が息を吐く際に、まず口から出るのは、口腔、鼻腔、咽頭、気管、気管支、細気管支、終末細気管支にある気体です。これらの部位は、“死腔”と呼ばれ、肺胞のように血液とCO2の交換をしておりません。ですので、その気体の中にはあまりCO2が含まれていないことになります。(吸った気体と同じCO2濃度になります。)
その後、吐き続けるとついに肺胞-血液間でCO2を交換した気体が口から出てきます。この気体には当然、CO2が多く含まれています。そして、最後まで吐き切った時点での口から出ている気体のCO2分圧のことをEtCO2といいます。
肺胞-血液間でCO2を交換する際に、肺胞内のCO2と血液中のCO2は同じになるため、EtCO2とPaCO2は大体、同じくらいの値になります。(正確には、少し死腔の気体が混ざって希釈されるため、EtCO2の方が2~3Torr程度低くなります。)
これにより、採血をせずとも動脈血内のCO2が検出できるのです。
酸素化と換気を調整する
酸素化と換気は何によって左右されるのでしょうか。
これを理解すれば、患者さんの呼吸を改善させるために何をすべきかが分かってくると思います。
酸素化を改善するには?
肺は、肺胞という小さな袋が無数に集まって成り立っています。
O2は、肺胞で血液内に取り込まれているのですが、肺胞がぺちゃっと潰れてしまうと、血液中にO2を取り込むことができなくなってしまいます。結果、全身の組織にO2の少ない血液を送り出すこととなり、患者さんは息苦しくなってしまいます。
この場合の対応としては、2つの方法が挙げられます。
- 酸素を投与する
- 潰れてしまった肺胞を広げる
酸素を投与する
酸素投与を行う(FiO2を上げる)と、肺胞が潰れてしまっている状況は変わりませんが、潰れていない肺胞でより多くのO2を取り込めるため、血液中のO2が増えることになります。
しかし、肺内で潰れた肺胞の割合が増えすぎてしまうと、いくらO2を投与したとしてもO2を取り込める肺胞がないため、血液中のO2が増えなくなってしまいます。
肺胞を広げる
肺胞を広げると、O2を取り込める肺胞が増えるため、血液中のO2が増えることになります。
では、どうすれば潰れた肺胞を広げることができるのでしょうか。
呼吸の中で肺胞が最も潰れているタイミングは、息を吐き切ったときです。
このタイミングで陽圧をかけること(=PEEP)で、肺胞が潰れずに膨らんだ状態を維持できます。
換気を改善するには?
CO2はO2に比べ、拡散しやすく、肺胞が多少潰れていても残りの正常な肺胞からCO2を排出することができます。
血液から肺胞へ捨てたCO2を口の外へ吐き出し、また新鮮な気体を吸ってCO2を捨てる。
CO2をたくさん排出させるには、肺胞を出入りする気体の量を増やせばよいのです。
1分間あたりに肺胞を出入りする気体の量を分時換気量(MV)といいます。
分時換気量(MV)=1回換気量(TV)×呼吸回数(RR)
ですので、分時換気量を増やす方法には以下の2つがあります。
- 1回換気量を上げる
- 呼吸回数を上げる
1回換気量を上げる
息を吸うときにさらに圧をかければ(気体を押し込めば)、1回換気量は増えます。
しかし、あまり圧をかけすぎると、肺が破れてしまったりする恐れがあるため、かけすぎには注意が必要です。
呼吸回数を上げる
人工呼吸器では、気体を送る頻度をダイアルで調整できます。この頻度を増やせば、呼吸回数が増えたことになります。
しかし、呼吸回数を上げ過ぎると、肺胞の気体を吐き出し切る前に気体を送り込んでしまうことになるため、死腔の気体を交換しているだけになってしまい、肺胞を出入りする気体の量は実質、減ってしまうので注意が必要です。
まとめ
★呼吸を評価する際には、酸素化と換気を分けて考える。
★酸素化は、P/Fで評価し、FiO2とPEEPで調整する。
★換気は、PaCO2やEtCO2で評価し、1回換気量と呼吸回数で調整するが、いずれも上限がある。
References
- 病気がみえる vol.4 呼吸器 ,2007
- Paul L. Marino “The ICU Book 4th edition” ,2014
- D Alonzo GE et al. Med Clin North Am 67:557-571, 1983
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