循環の診かた! Part 3

今回は、「実際にどのように術後患者さんの循環をコントロールしていくか」というより実践的な内容になっておりますので、研修医やICU看護師さんには特に読んでいただきたい内容となっております。

まず、他の投稿を読んで下さっている方にとっては、くどいかもしれませんが、今一度、”循環管理の最重要ルール”を復習しておきましょう。

・平均血圧(MAP)=心拍出量(CO)×末梢血管抵抗(SVR)
・心拍出量(CO)=一回拍出量(SV)×心拍数(HR)
・1回拍出量(SV)は、①心特性、②前負荷、③後負荷により決定する

SVRの調整

SVRが低すぎると、MAPが低下し、臓器灌流が維持できなくなってしまいます。反対に、SVRが高すぎると、後負荷が上がり、1回拍出量が低下してしまいます。

ゆえに、SVRを至適な範囲に維持することは循環管理において大切だと言えます。

ではどのように調整をすればよいのでしょうか。

臨床的には、薬剤を用いて調整することが多く、SVRを上げる薬を血管収縮薬、SVRを下げる薬を血管拡張薬と言います。

今回は、ICUでよく用いられる静脈注射薬(静注薬)をご紹介していきます。

血管収縮薬

血管収縮薬としてよく用いられる静注薬としては、ノルアドレナリン、アドレナリン(ボスミン®)、ドパミン(イノバン®)、バソプレシン(ピトレシン®)が挙げられます。

しかし、ショック患者におけるドパミン使用はノルアドレナリン使用と比較して催不整脈性が有意に高いことから、近年、あまり使用されなくなってきておりますので、今回は、ノルアドレナリン、アドレナリン、バソプレシンの3剤についてご説明していきたいと思います。

ノルアドレナリン

ノルアドレナリンを投与すると、SVRを上がり、MAPが上がります。(α刺激作用)

通常、心特性やHRへの影響はありませんが、高用量になると心特性やHRが軽度上昇します。

用量は、0.01γ~0.3γです。

末梢ルートから投与できますが、高用量(≧0.1γ)で投与する場合は、中心静脈ルートからの投与が望ましいと言われています。(皮下へ漏出した場合に皮膚壊死などが起こる恐れがあるため)

また、アシドーシスがあると、反応性が低下するため、「効きが悪いな」と感じたら、血液ガス分析を確認しましょう。

投与例
本剤は、もともと1mg/1ml/1Aの製剤です。
2Aを生食38mlで希釈= 2mg/40ml
体重×0.06ml/hから開始= 0.05γ
0.01γ~0.3γで使用

アドレナリン (ボスミン®)

アドレナリンを投与すると、SVRだけでなく、心特性やHRも上がり、MAPが著明に上がります。(α+β刺激作用)

用量は、0.01γ~0.3γです。ただし、CPAの場合は1mgを3-5分毎に静注します。

末梢ルートから投与できますが、高用量(≧0.1γ)で投与する場合は、中心静脈ルートからの投与が望ましいと言われています。(皮下へ漏出した場合に皮膚壊死などが起こる恐れがあるため)

また、この薬剤もアシドーシスがあると、反応性が低下するため、「効きが悪いな」と感じたら、血液ガス分析を確認しましょう。

投与例
本剤は、もともとは1mg/1ml/1Aの製剤です。
2Aを生食38mlで希釈= 2mg/40ml
体重×0.06ml/hから開始= 0.05γ
0.01γ~0.3γで使用

バソプレシン (ピトレシン®)

ノルアドレナリンやアドレナリンとは全く異なる機序でSVRを上げます。(V1刺激作用)

用量は、1~6単位/hです。ただし、CPAの場合は40単位を静注します。

アシドーシスの状態でも昇圧効果が維持されると言われています。

投与例
本剤は、もともとは20単位/1ml/1Aの製剤です。
2Aを生食38mlで希釈= 40単位/40ml
1ml/hから開始= 1単位/h
1~6単位/hで使用
γガンマ計算ってなあに?

γは、薬剤を体格によらず画一的に調整するために用いられる単位です。

大盛のカレーライスがあるとしましょう。
体格が大きい人にとってはそのカレーライスの量がちょうどいいのかもしれませんが、体格が小さい人にとっては多く感じるでしょう。(フードファイターの方は除く)
一方で、「体重1kgあたりのカレーライスの量」を同じにすれば、大柄な人も小柄な人も”同じくらい”のカレーライスを食べることになると思います。
これが、γの考え方です。

薬剤でも同じことが言えるのです。
例えば、ノルアドレナリンを1mg/20mlに希釈して、6ml/hで投与するとしましょう。
すると、体重100kgの患者さんと体重50kgの患者さんだと、6ml/hの意味が異なってきます。
体重100kgの患者さんだと0.05γ(普通の量)、体重50kgの患者さんだと0.1γ(ちょっと多めの量)投与していることになるのです。
★γ計算が苦手な人のために

とはいえ、「用量を〇~△γの範囲で使ってください。」と言われてもピンとこない人もいると思います。
なぜなら、実際にはシリンジポンプの流量で薬剤を調整していることが多いからです。
施設によっては薬剤希釈表たるものがあり、その表に従ってγと流量(ml/h)を逐一見合わせて調節したりします。

しかし、緊急時には薬剤希釈表を用意する猶予すらない場合があるので、ある程度は暗算できた方がいいでしょう。ですので、そのコツをご紹介いたします。

ノルアドレナリンやアドレナリンは1mg/1ml/1Aの製剤です。
当院ではこの薬を20倍に希釈し、1mg/20mlにして使用しています。
1γ=1μg/kg/minですので、これをいじって、シリンジポンプの流量(ml/h)に変換したいと思います。

1γ =1μg/kg/min
     =60μg/kg/h (min→hに変更)
     =0.06mg/kg/h (μg→mgに変更)
     =0.06×20ml/kg/h (1mg/20mlなので)

ここで、両辺を÷20しますと、
0.05γ = 0.06ml/kg/h
となります。

0.05γというのが、ノルアドレナリンやアドレナリンの最初の投与流量としては割とちょうどいい流量なので、結局、緊急時には体重×0.06ml/hからスタートすればいいというわけです。

慣れてくると、この値が0.05γであるとしっかり認識できるようになるので、微調整が効くようになります。

ちなみに、ノルアドレナリンやアドレナリンを10倍希釈で使用している施設もあると思いますが、その場合は上記の式で20を10に置き換えて計算してみてください。
shingari
shingari

【患者さんの血圧が急に下がった場合】

この患者さんは体重80kgくらいだから、 ノルアド20倍希釈で4.8ml/hからスタートしよう。

この流量は0.05γ相当だから、0.01γ=0.96ml/hくらいか。

まだ血圧低めだから、1.9ml/h(≒0.02γ)ずつ上げていこう。

血管拡張薬

血管拡張薬として、よく用いられる静注薬として、ニカルジピン(ペルジピン®)があります。

ニカルジピン (ペルジピン®)

ニカルジピンはCa拮抗薬と言われるタイプの薬剤です。これを用いると、動脈が拡張し、SVRが下がります。

原液で用いることが多く、用量は1~15ml/hです。

末梢ルートからの投与が可能ですが、高用量・長時間・希釈なく使用した場合、静脈炎を発症する可能性が高くなると言われています。

投与例
本剤は、もともとは10mg/10ml/1Aの製剤です。
5Aを原液でシリンジで吸う= 50mg/50ml
2ml/hから開始= 2mg/h
1~15ml/hで使用= 1~15mg/h

HRの調整

HRが遅いと、COが低下します。

一方で、HRが早いと、COが高くなると思いきや、過度に早すぎると拡張期が短くなるため、心臓内に十分に血液を充満できず、空打ちのような状況になってしまい、COは下がります。

ですので、至適なHRを維持する必要があります。(不整脈への対応については、また別稿で説明します。)

ICUで用いられる薬剤には、HRを上げる目的の薬剤とHRを下げる目的の薬剤があります。

HRを上げる目的の薬剤としては、アトロピン、イソプロテレノール(プロタノール®)、ドブタミン(ドブポン®)、アドレナリン(ボスミン®)が挙げられます。

HRを下げる目的の薬剤としては、いわゆる”抗不整脈薬”が用いられます。抗不整脈薬には数多くの種類の薬剤がありますが、今回はレートコントロール目的での使用頻度の高いランジオロール(オノアクト®)、ベラパミル(ワソラン®)、ジルチアゼム(ヘルベッサー®)の3剤についてご紹介しようと思います。また、心臓外科手術後特有の対応方法として、心外膜ペーシングというものもあります。

HRを上げる

心外膜ペーシング

心臓外科術後は、右心房と右心室の心外膜にリード線をそれぞれ留置し、一時的にペーシングをできるようにします。

心臓外科手術では、心停止下に手術を行うことが多く、心筋浮腫などの影響で術後に洞不全症候群や房室ブロックなどの徐脈性不整脈をきたすことがあります。

その場合には、心外膜リードに接続したテンポラリーペースメーカーから送電(=ペーシング)することによって心筋に電気的刺激を与え、HRを上げることができます。

直接、送電することでHRを上げているため、薬剤よりも確実にHRを上げることが可能であることから、心臓外科術後においては第1選択の方法となります。

このテンポラリーペースメーカーの具体的な設定方法に関しては、別稿で説明いたします。

アトロピン

アトロピンを投与すると、HRを上げることができます。(ムスカリン性ACh拮抗作用)

1回 0.5mg、3~5分おいて6回まで投与可です。

徐脈性不整脈においてよく使用されますが、その効果を過度に期待してはいけません。「アトロピン投与のためにペーシングのタイミングを遅らせてはいけない」とAHAの心肺蘇生ガイドラインにも記載されています。

投与例
本剤は、もともと0.5mg/1ml/1シリンジの製剤です。
1シリンジをそのまま静注= 0.5mg/1ml
3~5分おいて計6回まで投与可= 計3mg

ドブタミン (ドブポン®)

ドブタミン (ドブポン®)を投与すると、HRおよび心特性を上げることができます。(β刺激作用)

用量は、1γ~5γです。

HRを上げるすべての薬剤に言えることですが、効きすぎると頻脈性不整脈を惹起する可能性があります。

当院では、0.3%シリンジというタイプのテルモ株式会社と協和キリン株式会社が販売しているものが採用となっていますが、投与流量は、このパッケージの表紙に記載されている表を用いると便利です。

ドブポン注0.3%シリンジ
投与例 (当院採用の0.3%シリンジの場合)
本剤は、もともと150mg/50ml/1キットの製剤です。
1キットをそのままシリンジポンプに接続= 150mg/50ml
パッケージの表紙に記載されている表に体重を照らし合わせて1γから開始= 1γ
1γ~5γで使用

イソプロテレノール (プロタノール®)

イソプロテレノール(プロタノール®)を投与すると、HRおよび心特性を上げることができます。(β刺激作用)

用量は、0.01γ~0.2γです。

ドブタミンと同様に、効きすぎると頻脈性不整脈を惹起する可能性があります。

投与例
本剤は、もともとは0.2mg/1ml/1Aの製剤です。
5Aを生食45mlで希釈= 1mg/50ml
体重×0.06ml/hから開始= 0.02γ
0.01γ~0.2γで使用

アドレナリン (ボスミン®)

前述しましたので、割愛いたします。

HRを下げる

ランジオロール (オノアクト®)

ランジオロール (オノアクト®)を投与すると、HRを下げることができます。(β1遮断作用)

左室駆出率(EF)を下げずにHRを下げられると言われています。

用量は、1γ~10γです。

投与例
本剤は、もともとは50mg/1Vの製剤です。
3Vを生食50mlで希釈= 150mg/50ml
体重/50ml/hから開始= 1γ
1γ~10γで使用

ジルチアゼム (ヘルベッサー®)

ジルチアゼム (ヘルベッサー®)を投与すると、HRを下げることができます。(Ca遮断作用)

用量は、5~15mg/hです。

心抑制効果(陰性変力作用)がありますが、ベラパミルよりも降圧効果が強くないため、左室駆出率(EF)低い患者さんにおいても比較的安全に使用できます。

投与例
本剤は、もともとは50mg/1Aの製剤です。
5Aを生食50mlで希釈= 250mg/50ml
1ml/hから開始= 5mg/h
1~3ml/hで使用= 5~15mg/h

ベラパミル (ワソラン®)

ベラパミル (ワソラン®)を投与すると、HRを下げることができます。(Ca遮断作用)

用量は、1回 2.5~5mgです。

心抑制効果(陰性変力作用)があるため、左室駆出率(EF)低い患者さんや血圧が低い患者さんなどには使いづらい印象です。

AF・AFL患者におけるジルチアゼムとの比較試験では、レートコントロールの効果に差はありませんが、低血圧の副作用がより多いという結果でした。

投与例
本剤は、もともとは5mg/2ml/1Aの製剤です。
1Aを生食100mlで希釈= 5mg/100ml
30分かけて投与= 10mg/h

心特性の調整

心特性が低下すると、SVが低下し、COが低下します。

一方、心特性が上昇すると、SVが増え、COも増えるため、心特性を積極的に抑えにいくことはあまりありませんが、術後に出血が危惧されている場合や急性大動脈解離の保存療法中の場合などに、降圧が困難な場合には、心特性を抑えることがあります。

心特性を抑える方法は、HRを下げる方法を見ていただくとよいと思います。HRを下げる薬剤には”陰性変力作用”をもつものが多く、この作用を利用して心特性を抑えます。

一方、心特性を強める方法としては、

  1. 心特性低下の原因を除去する
  2. 強心薬を使用する
  3. 循環サポートデバイスを使用する

ことが挙げられます。

1に関しては、原疾患の治療がメインになります。例えば、冠動脈病変に対して、PCIやCABGを施行したり、弁膜症に対して弁形成や弁置換を行ったりといったことです。

2に関しては、静注薬としてドブタミン(ドブポン®)、ミルリノン(ミルリーラ®)を用いることが多いです。

3に関しては、IABPを使用することで冠動脈血流を増やし、結果、心特性を強めたり、左心室から脱血し、大動脈へ送血するようなデバイス(ImpellaやLVAD)を装着することで心特性を上げることができます。

今回は、2の静注薬に関してご説明しようと思います。1、3に関しては別稿でご紹介いたします。

ドブタミン (ドブポン®)

HRの部分で前述いたしましたので、割愛いたします。

ミルリノン (ミルリーラ®)

ミルリノン(ミルリーラ®)を投与すると、心特性を上げることができます。(PDE阻害作用)

また、血管拡張作用によりSVRが低下し、肺動脈拡張作用もあります。

原液で用いることが多く、用量は、0.25γ~0.75γです。

ミルリノンは、ドブタミンと比較して心筋酸素消費量を増やさないことや肺動脈拡張作用により右心室の後負荷が軽減されるというメリットがあります。

一方で、血管拡張作用により血圧低下例においては使用しづらかったり、腎代謝であることから腎機能低下患者においては副作用なども出やすく、用量調整が難しいというデメリットもあります。

投与例
本剤は、もともとは10mg/10ml/1Vの製剤です。
2Aを原液でシリンジに吸って使用= 20mg/20ml
体重×0.015ml/h= 0.25γ
0.25~0.75γで使用

前負荷の調整

前負荷が小さすぎると、SVが減り、結果、COが減ってしまいます。

一方、前負荷が大きいと、SVが増えると思いきや、過度に大きいと心特性が対応しきれず、肺うっ血をきたしてしまいます。

ゆえに前負荷を適正に維持することも大切です。

前負荷を調整する方法には、

  1. 血管内容量を調整する方法
  2. 静脈収縮を調整する方法

があります。

具体的には、

  • 前負荷を増やす
    • 血管内容量を増やす ⇒輸液・輸血
  • 前負荷を減らす
    • 血管内容量を減らす ⇒利尿薬、透析
    • 静脈を拡張させて、静脈還流を減らす ⇒ニトログリセリン(ミオコール®)

といった対応が挙げられます。

輸液や輸血、利尿薬、透析についてはまた別稿で解説します。

今回は、ニトログリセリン(ミオコール®)についてご説明いたします。

ニトログリセリン (ミオコール®)

ニトログリセリン(ミオコール®)は硝酸薬と言われるタイプの薬剤です。

これを用いると、一酸化窒素(NO)の働きによって静脈が拡張し、前負荷が減ります。また、高用量(>12mg/h)になると動脈が拡張し、SVRが低下します。

原液で用いることが多く、用量は1~15ml/hです。

使用してから24~48時間程度で薬剤耐性ができてしまい、効果が減弱するため、注意が必要です。1日6時間程度の休薬をすることで薬剤耐性が防げると言われています。

投与例
本剤は、もともとは5mg/10ml/1Aの製剤です。
5Aを原液でシリンジで吸う= 25mg/50ml
2ml/hから開始= 1mg/hに相当
1~15ml/hで使用= 0.5~7.5mg/hに相当

まとめ

References

  • Paul L. Marino “The ICU Book 4th edition”, 2014
  • 大野博司 “ICU/CCUの薬の考え方,使い方 ver.2”, 2016
  • Daniel D B et al. N Engl J Med 362:779-789, 2010
  • Nagai R et al. Circ J 77: 908‒16, 2013 (= J-Land study)
  • Bradley G. Phillips et al. Pharmacotherapy 17(6):1238-45, 1997

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