心臓外科手術後の患者さんは、気管挿管された状態でICUに帰室し、全身状態の安定を確認した後に、人工呼吸器を離脱・抜管することが多いと思います。
また、重症な患者さんの場合には、術前から人工呼吸器管理を要することもあります。
今回は、人工呼吸器管理について学んでみようと思います。
人工呼吸器が必要な患者とは?
人工呼吸器管理が必要な患者さんとはどのような患者さんなのでしょうか。
一言でいいますと、
「A、B、C、Dのいずれかに高度の異常がある患者」
です。
A、B、C、Dというのは、Airway、Breathing、Circulation、Dysfunction of CNSの頭文字をとったものです。すなわち、気道、呼吸、循環、中枢神経系のことを表現しています。
この4項目に高度の異常があった場合には、人工呼吸器管理が必要なのです。
Airwayの高度な異常がありますと、そもそも肺に空気が入らないため、呼吸ができなくなってしまいます。ですので、気管挿管を行う必要があり、それに伴い人工呼吸器による呼吸サポートが必要となります。
Breathingの高度な異常がありますと、自力での肺での酸素や二酸化炭素の交換ができなくなるため、人工呼吸器を用いて呼吸をサポートする必要があります。
Circulationの高度な異常がありますと、全身の組織への酸素供給能が著しく低下するため、酸素需要を極力減らして、酸素の需要と供給のバランスをなんとか維持をするように努める必要があります。酸素需要を減らすためには、鎮静(場合によっては筋弛緩)によって安静を維持する必要があり、それに伴い自発呼吸が不安定になるため、気管挿管・人工呼吸器管理をする必要があります。
Dysfunction of CNSがありますと、舌根沈下によりAirwayを維持できなくなったり、自発呼吸が不安定になることでBreathingが維持できなくなるため、やはり気管挿管や人工呼吸器装着が必要となります。
人工呼吸器は何ができるの?
では、人工呼吸器を装着することによってどんなメリットがあるのでしょうか?
人工呼吸器を装着することによるメリットは5つあります。
- 確実な気道確保ができる
- FiO2が安定する
- PEEPがかけられる
- 自発呼吸がなくても強制的に換気ができる
- 自発呼吸に合わせたサポートができる
それぞれについて少しお話しをしていきたいと思います。
確実な気道確保ができる
人工呼吸器は、必ず確実な気道確保を行ってから装着する必要があります。
すなわち、
- 気管挿管
- 輪状甲状靭帯切開
- 気管切開
により確実に気道内にチューブを挿入してから人工呼吸器を装着するのです。
これにより人工呼吸器により送気した気体は食道などへ迷入することなく、確実に肺へ届きます。
ちなみに、成人ですと、男性は内径8mm、女性は内径7mmのチューブを使用することが多いです。ただし、喉頭浮腫が顕著であったり、輪状甲状靭帯切開を要する場合ではより小さめのサイズのチューブをやむをえず使用することもあります。
FiO2が安定する
「医療従事者向け! 酸素投与について!」でもご説明をさせていただきました。
人工呼吸器を装着している患者さんは、気管内に直接チューブが挿入され、送気される気体がすべて肺へ届き、それ以外の場所から空気が混入することはないため、送気される気体の酸素濃度とFiO2が一致します。
ゆえに、設定した濃度の酸素を確実に送気できます。
PEEPがかけられる
「医療従事者向け! 呼吸の診かた!」でもPEEPについてご説明をさせていただきました。
肺胞が潰れていると、酸素交換ができないため、酸素化を改善させるには、肺胞を膨らませることが必要です。
肺胞が最も潰れるタイミングは呼気の終わりであるため、このタイミングで陽圧がかかっていることが大切です。この陽圧のことをPositive End-Expiratory Pressure (PEEP)と言いました。
人工呼吸器装着患者では、人工呼吸器と患者の肺が回路やチューブを介して一つなぎになっているため、人工呼吸器の設定によって気道内圧の陽圧を維持することができます。すなわちPEEPを維持することができます。
自発呼吸がなくても強制的に換気できる
気管挿管などにより確実に気道が確保されているため、自発呼吸がなくても、人工呼吸器から送気することで強制的に換気することができます。
自発呼吸に合わせたサポートができる
人工呼吸器は、自発呼吸を認識し、そのタイミングに合わせて送気することができます。
これにより、呼吸筋の萎縮などにより自発呼吸が弱ってしまった患者に対しても、自発呼吸を尊重しつつ呼吸をサポートすることができます。
まとめ
★A、B、C、Dに高度の異常がある場合に人工呼吸器管理が必要
★人工呼吸器は、確実な気道確保、FiO2の安定化、PEEPの維持、強制換気、自発呼吸のサポートができる
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