循環の診かた! Part 2

以前に投稿しました「医療従事者向け! 循環の診かた!」では、循環管理の最重要ルールをご紹介させていただきました。

・平均血圧(MAP)=心拍出量(CO)×末梢血管抵抗(SVR)
・心拍出量(CO)=一回拍出量(SV)×心拍数(HR)
・1回拍出量(SV)は、①心特性、②前負荷、③後負荷により決定する

というルールでしたが、今回はそれぞれの評価方法について考えていきたいと思います。

心拍出量 (CO)

心拍出量を評価する上で、まず患者さんの体格を考慮する必要があります。

体格による心拍出量の影響を減らすために心拍出量を体表面積で割った値が臨床上、用いられることが多く、そのことを「心係数(CI)」といいます。

心係数(CI)=心拍出量(CO)/体表面積
例えば、患者Aと患者Bの2人の患者さんがいるとします。
患者A:身長150cm、体重50kg (体表面積1.433m2)
患者B:身長190cm、体重100kg (体表面積2.283m2)
と、体格にかなりの差があります。
2人とも心拍出量4.5L/minであったとすると、
患者A:心係数3.14L/min/m2  (⇒正常)
患者B:心係数1.97L/min/m2  (⇒体格の割に心拍出量が小さい)
となります。

心拍出量(CO)を評価する方法は、主に2つあります。

  • 心臓エコーによる評価
  • Swan-Gantzカテーテルによる評価

心臓エコーによるCO測定

最重要ルールの2行目にも含まれていますが、CO=SV×HRですので、心臓エコーでSVを測定し、HRをかけ算すれば、COを求めることができます。心臓エコーでのSVの測定方法は後述いたします。

Swan-GantzカテーテルによるCO測定

Swan-Gantzカテーテルの真ん中あたりには熱フィラメント、先端には温度センサーが内蔵されています。

  1. 熱フィラメントで加温すると血液の温度が一時的に上昇します。
  2. 熱フィラメントによる加温をやめると、血液の温度は徐々に下がっていきます。
  3. 1,2を何度か繰り返し、温度変化の度合いからでCOを求める。

イメージとしては、加温を中止してから血液温が速やかに下がる場合は、”心臓から出ていく血液量が多い”ことを示しており、COが高いことを意味しています。

一方で、加温を中止しても血液温がなかなか下がらない場合は、”心臓から出ていく血液量が少ない”ことを示しており、COが低いことを意味しています。

末梢血管抵抗 (SVR)

末梢血管抵抗の評価の方法は2つあります。

  • 触診による末梢冷感の有無
  • Swan-Gantzカテーテルによる体血管抵抗係数(SVRI)測定

末梢冷感の有無

末梢冷感の有無は、簡便で最も迅速に確認できる所見の一つです。

末梢冷感があれば、SVRが高く、末梢が温かければ、SVRが低いと判断します。

周囲の温度変化による影響を受けますが、病院内は室温が年中維持されていることが多いため、院内においては特に信憑性が高い所見であると考えています。

また、手関節付近のみを触診して末梢冷感を評価する医療従事者の方が多い印象を受けますが、私は、手関節付近だけでなく、足部~大腿部まで触診しています。

心臓手術後の循環不安定な患者さんを触診しておりますと、最初は大腿部まで冷感があっても、ある程度の輸液負荷や薬剤調整によって循環が安定してくると、徐々に膝関節→下腿→足関節→足部へ温かくなってくるのが分かります。この所見に関するエビデンスは持っておりませんが、SVRIとの一致率も高く、とても大事にしている所見です。

体血管抵抗係数 (SVRI)

SVRIは、Swan-Gantzカテーテルで測定した値から算出する末梢血管抵抗の指標です。

SVRI=(MAP−RAP)/CI×80  (正常値: 1700~2400 dyne-sec/cm5/m2)
SVRI:体血管抵抗係数、MAP:平均血圧、RAP:右房圧、CI:心係数

末梢血管抵抗が高いと、血圧は上がりやすく、心拍出量は減りやすくなります。

この関係性を式に変換し指標にしたのが、SVRIです。

一回拍出量 (SV)

一回拍出量(SV)の直接的な評価は、心エコーで行います。

その測定方法には、2つの方法が主に用いられています。

  • Teichholz法による測定
  • Simpson法による測定

心エコーの測定方法というややマニアックな内容になってしまうので、詳細はまた後日、投稿いたします。

一応、ザックリと説明いたしますと、

★Teichholz法
 ・傍胸骨左縁にプローベをおいて長軸像を描出
 ・収縮期と拡張期の左室内腔短径を乳頭筋付着部レベルで測定
 ・経験式から収縮期と拡張期の左室内容積が推定される
 ・"SV=拡張期左室内容積ー収縮期左室内容積"で算出

★Simpson法
 ・心尖部にプローベをおいて四腔像と二腔像を描出
 ・収縮期と拡張期の左室内腔の辺縁をカーソルを用いてプロット
 ・収縮期と拡張期の左室内容積が推定される
 ・"SV=拡張期左室内容積ー収縮期左室内容積"で算出

しかし、実際のベッドサイドでは、SVを直接測定することは少なく、HRとCIのバランスからSVを推定していることが多いです。

shingari
shingari

HRが早いのにCIが低い ⇒ SVが低い

といった感じです。

HR (心拍数)

HRに関しては、モニター心電図もしくは十二誘導心電図を見ることで評価ができます。

しかし、不整脈がある場合は、その評価には注意が必要です。

VFやpulseless VTのときには、もはや悠長に評価している場合ではないので、速やかに蘇生処置を行ってください。

臨床で評価に困るのは、心房細動や二段脈、三段脈の場合などですが、私自身の解釈方法をご紹介いたします。

心房細動の場合には、約25%心拍出量が低下する言われていますので、洞調律時のCIから25%を間引いて考えています。

shingari
shingari

CI 3.0L/minの患者さんが心房細動を併発した場合は2.25L/min程度までCIが低下するイメージです。

複数段脈の場合には、脈を触知して触知できる脈拍数を有効なHRと解釈しております。

shingari
shingari

モニター心電図では、二段脈でHR 120/minと表示されているが、橈骨動脈は60/min程度しか脈を触知できないので、HR 60/minとして扱うといった感じです。

心特性

心特性は、心臓が血液を拍出できる心臓自体の能力のことをいいます。

これを評価する方法は、主に2つあります。

  • 頸静脈の観察
  • Swan-Gantzカテーテルによる評価
  • 心臓エコーによる評価

頸静脈の観察

観察手順としては、以下のように行います。

  1. 座位45°で右内頸静脈を観察する
  2. 右内頸静脈の拍動の最高点を同定する
  3. 最高点から胸骨角までの距離を測定する
  4. この距離に+5cmをしたものが頸静脈圧となる(右房~胸骨角が5cmであるため)

頸静脈圧が>10cmH2Oだと、頸静脈圧が上昇と判断します。

左心不全や右心不全になりますと、静脈が鬱滞し、圧が上昇します。ゆえに、頸静脈圧が上昇していると、心特性が低下している可能性があります。

Swan-Gantzカテーテルによる圧測定

Swan-Gantzカテーテルは、心臓内の圧を測ることができます。

カテーテルの先端の圧と側口の圧の2ヶ所で圧を測定でき、先端は通常、肺動脈に、側口は右房内にあります。また、カテーテル先端にはバルーンが装着されており、これを膨らませることで、肺動脈を閉塞(=楔入)させることで、間接的に左心房の圧を測定することもできます。

Swan-Gantzカテーテルが測定できる圧は3つあり、

  • 肺動脈圧(PAP)
  • 中心静脈圧(CVP)
  • 肺動脈楔入圧(PAWP) =左心房圧

これらにMAPを加えると、心臓の4つの内腔(右心房、右心室、左心房、左心室)の圧をすべて推定することが可能でになります。この圧のバランスをみながら、心特性を評価していきます。

皆さんが車を運転されているときに、渋滞に出くわしたことがあると思います。

高速道路で事故などにより車線規制がかかったときなどは、ひどい渋滞が起こりますよね。

このイメージが重要です。

心臓や血管の中には絶え間なく血液が流れていますが、どこかで事故が起こると、事故現場よりも前の血流は減り、事故現場よりも後ろの血液は鬱滞します。

すなわち、以下のようなパターンになります。

MAPPAWPPAPCVP
左心不全
肺塞栓
右心不全
心タンポナーデ

心臓エコーによる評価

心臓エコーで心特性を見る際には、主に3つをチェックしています。

  • LVEF
  • Asynergyの有無
  • 高度な弁膜症の有無

これらの詳細に関してはまた後日、ご説明いたしますが、ザックリと説明すると、

LVEF:左室の収縮力を表す指標
Asynergy:左室の壁運動の不均一性を表す。冠動脈イベントなどの発見にもつながる。
高度な弁膜症:LVEFがよくても心臓から血液を送る効率が悪くなるため、心特性は悪くなる。 

前負荷

前負荷に関しては、主に血管内のvolumeが大きく影響(実際には静脈収縮なども影響)しますが「患者さんにとって最適なvolumeであることを示す絶対的な指標」というものはありません。

一方で、「輸液負荷により心拍出量が増えるかどうか」という“輸液反応性”の指標というものは多く報告されています。

この指標は主に

  • 頸静脈の観察
  • Swan-Gantzカテーテルによる評価
  • 心臓エコーによる評価
  • Flotrac
  • 生理食塩水負荷
  • 下肢挙上試験

などがあります。

頸静脈の観察

頸静脈が怒張している場合には、心特性が低下していたり、心タンポナーデになっている可能性が挙げられますが、Hypervolemiaである可能性も鑑別に挙がります。

一方、Hypovolemiaの患者さんは、頸静脈が虚脱するため、臥位でも頸静脈拍動は視認できなくなります。

Swan-Gantzによる圧測定

Hypovolemiaの患者さんは、血管内容量が不足しているわけですから、Swan-Gantzカテーテルで測定できる圧がすべて低下傾向となります。

つまり、CVP↓、PAP↓、PAWP↓、MAP↓となります。

心臓エコーによるIVC測定

心臓エコーでは主にIVCを評価し、以下の2点を測定します。

  • IVC径
  • 呼吸性変動の有無

呼吸によって胸腔内圧が変動するため、それによるIVC径の変動をみることで、IVC内の圧(=右房圧=中心静脈圧)を推定することができます。

最大IVC径(mm)呼吸性変動推定右房圧(mmHg)
≦21≧50%0-5
≦21<50%5-10
>21≧50%5-10
>21<50%15

また、人工呼吸装着患者(TV≧8ml/kg、PEEP≦5cmH2O)においては、IVC呼吸性変動>16%で輸液反応性があるとするメタ解析もあります。

FlotracによるSVV測定

呼吸による胸腔内圧の変動により、静脈還流量も変動します。それに伴い、1回拍出量(SV)も変動しますが、その変動幅を数値化した指標がSVVです。

A lineをとり、Flotracという機械に接続すると表示されます。

SVV>10%で輸液反応性があるとされています。

生理食塩水負荷

生理食塩水を250-500ml負荷して、心拍出量の変化を観察するというものです。

これにより心拍出量が増えれば、輸液負荷反応性があると判断されます。

下肢挙上試験 (Passive Leg Raising :PLR)

Head up 45°の状態から、Head downし、下肢を45°挙上したときの心拍出量の変化を観察するというものです。これにより、下肢の静脈の血液が心臓へ戻り、静脈還流量が増えるため、心拍出量が増えます。実際に、300mlの生理食塩水を負荷した場合と同等の効果があると言われております。

この試験で心拍出量が増加すれば、輸液反応性があると判断されます。

後負荷

SVRと重複しますので、割愛いたします。

まとめ

★循環を診る際は、必ず循環管理の最重要ルールを思い浮かべる。

★心臓エコーやSwan-Gantzカテーテルは得られる情報が多い。

★末梢冷感や頸静脈怒張・虚脱は、非常に大切な身体所見である。

★「輸液反応性」を評価する指標がたくさんある。

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