患者さんが呼吸苦を訴えていたり、SpO2が低下していたりしたときに、まず酸素投与を行うと思います。
しかし、酸素投与するにもいろいろなデバイスがあって、どれを使ってよいのか悩んでしまうことはありませんか?
今回は、それぞれのデバイスの特徴とその使い分けについてお話ししたいと思います。
呼吸サポートデバイス
呼吸不全の患者さんに対して用いられる呼吸サポートデバイスは以下の7つがあります。
- 経鼻カニューレ
- マスク
- リザーバーマスク
- ネーザルハイフロー
- NIPPV
- 人工呼吸器
- VV-ECMO
それぞれについて説明していきます。
経鼻カニューレ
経鼻カニューレとは、患者さんの左右の鼻の穴に酸素を送るための2つの側孔が付いている細い管のようなデバイスを言います。
このデバイスでは、流量3L/minくらいまで酸素を投与することができます。(それ以上の流量だと、鼻の中がカピカピになります。)
人間は外気を吸う前にまず”死腔”を吸いますが、死腔の一部である“鼻腔内の酸素濃度を上げる”ことで吸気の酸素濃度を上げています。
FiO2(%)=20+4×流量
FiO2は、上の式で概算できますが、患者さんの分時換気量が多いと実際のFiO2はもっと下がっていってしまいます。
マスク
マスクとは、患者さんの鼻と口を覆うようなマスク型のデバイスのことを言います。
このデバイスでは、一般的に流量10L/minくらいまで酸素を投与することが多いです。
死腔の一部である“鼻腔と口腔内の酸素濃度を上げる”ことで吸気の酸素濃度を上げています。
FiO2(%)=10×(流量−1)
こちらのデバイスも患者さんの分時換気量が多いと実際のFiO2はもっと下がってしまいます。
リザーバーマスク
リザーバーマスクとは、患者さんの鼻と口を覆うようなマスクに酸素を溜め込む袋(リザーバー)が付いたようなデバイスのことを言います。
こちらのデバイスも、一般的に流量10L/minくらいまで酸素を投与することが多いです。
リザーバーという死腔をあえて増やし、“鼻腔と口腔内、リザーバーの酸素濃度を上げる”ことにより吸気の酸素濃度を上げています。
FiO2(%)=10×流量
こちらのデバイスも患者さんの分時換気量が多いと実際のFiO2はもっと下がってしまいます。
★分時換気量によってFiO2が左右されてしまう理由
経鼻カニューレ、マスク、リザーバーマスクにおいては、分時換気量が多くなればなるほどFiO2がどんどん下がっていってしまいます。なぜなのでしょうか?
患者A: 1回換気量500ml/回 × 呼吸回数10回/min = 分時換気量5L/min
患者B: 1回換気量500ml/回 × 呼吸回数40回/min = 分時換気量20L/min
2人の患者さんに1-10L/minの酸素投与をしたとしましょう。
分時換気量5L/minの患者Aと分時換気量20L/minの患者Bを比較すると、患者Bの方が酸素流量/分時換気量が減ってしまっていることに気づくと思います。言い換えますと、吸っている酸素濃度が薄まっている(FiO2が下がっている)ということなのです。
さらに言うと、これらのデバイスは分時換気量が大きい患者さんにおいては、あまり有効でない可能性があります。
ネーザルハイフロー
ネーザルハイフローは、経鼻カニューレのように左右の鼻から酸素を送るのですが、加湿機能を設けたことで鼻の中がカピカピにならず、高流量で送ることを可能にした比較的新しいデバイスです。
こちらのデバイスでは、流量30~60L/minで気体を送ることが可能です。人間は分時換気量30L/minを超えることはほぼないため、これだけの高流量になると、FiO2は患者さんの分時換気量には左右されず、送られている気体の酸素濃度に依存するようになります。このデバイスでは送る気体のFiO2を別に設定することができます。
FiO2=設定値
その他の効果・メリットとしては、
- 死腔内のwash out効果
- 軽度のPEEP様効果
- 装着時でも食事摂取が可能
が挙げられます。
軽度のPEEP様効果というのは、高流量で送り込まれる気体と患者さんの呼気がぶつかることで呼気時に気道内に圧がかかることを指しています。(呼気終末に圧がかかっていることをPEEPといいましたよね。)
閉口時で、2~3cmH2O程度PEEPがかかると言われています。
NIPPV
NIPPVは、顔への密着性をより高めたマスク型のデバイスで、安定したPEEPが可能となっています。いわゆる「挿管しない人工呼吸器」のようなデバイスです。
ほぼ人工呼吸器と同様な設定が可能となっており、当然、FiO2そのものを設定することができます。
FiO2=設定値
このデバイスにより気管挿管が回避できたりすることも少なからずあり、メリットは甚大なのですが、マスクの高い密着性を要するため、それに対して患者さんに不快感があり、装着が難しかったりと管理が少し難しいデバイスでもあります。
詳細な設定に関しては、また後日、投稿いたします。
人工呼吸器
人工呼吸器は、一般的には口から気管内にチューブを入れて行うデバイスで、安定したPEEPが可能です。気管内に直接圧をかけられるため、NIPPVよりもより高い圧をかけることも可能で、自発呼吸がない患者さんにおいても安心して使用することができます。
もちろん、FiO2そのものを設定することができます。
FiO2=設定値
詳細な設定に関しては、また後日、投稿いたします。
VV-ECMO
ECMOは、静脈から血液を脱血して人工肺で酸素を取り込んで、静脈に送血するようなデバイスです。患者さん自身の肺を介さずに血液中に酸素を取り込むことができるため、人工呼吸器でも対応できないような高度の呼吸不全がある患者さんに用いられます。
人工肺を介した血液は十分な酸素が取り込まれるため、患者さんの酸素化はポンプ流量(酸素化した血液をどれだけ患者さんに送ったか)によって規定されます。
詳細については、また後日、投稿いたします。
酸素投与による弊害
酸素投与により、患者さんの呼吸苦を改善することができる一方、過剰な酸素投与は患者さんに不利益をもたらします。
ゆえに「必要最低限」な酸素投与にすることが大事なのです。
今回は酸素投与が起こす弊害についてお話しいたします。
これを知っておけば、さらに自信をもって酸素投与できることにもつながると思います。
過剰な酸素投与は、毒である
呼吸によって取り込まれた酸素の一部は活性酸素という活性化した状態に変化します。通常ですと、生体内に抗酸化防御機能が備わっており、この活性酸素の働きをコントロールしているのですが、過剰な酸素投与を行うと、抗酸化防御機能を上回る活性酸素が生成されます。
この多すぎる活性酸素が肺の炎症を惹起するとも言われており、FiO2>60%を≧48時間吸わせた患者にARDSが生じたという報告もあります。
また、酸素自体の血管収縮効果も指摘されており、結局、末梢組織へは酸素が行き届かない可能性もあることが指摘されています。
これらのことから、過剰な酸素投与は毒である可能性が高いと言えると思います。
過剰な酸素投与は、呼吸状態悪化の発見を遅らせる
過剰に酸素投与している患者さんのSpO2は100%になっていることが多いと思います。
SpO2 100%ならいいじゃないかと思われる方もいるかもしれませんが、この“無駄にSpO2が良い”ことが問題なのです。
常に過剰な酸素投与をしていると、患者さんの肺が多少悪くなってもSpO2は100%で推移します。
患者さんの肺は誰にも気づかれぬまま、徐々に悪くなっていき、あるとき急激にSpO2が低下します。このときには、もはや手遅れになっていることが多いのです。
これに対して、SpO2を90-99%を推移するように最低限の酸素投与をしていれば、SpO2が少し下がった時点で肺のトラブルが発生したことに気付くことができ、迅速な対応が可能になるのです。
肺内シャントが多いと酸素投与は有効ではない
以前投稿した記事でも説明させていただきました。
肺内シャントが多いとFiO2を上げてもPaO2が上がりにくくなり、酸素投与の意義が薄くなっていきます。(肺内シャント≧50%になると、PaO2がFiO2の影響を受けなくなります。)
まとめ
★経鼻カニューレ、マスク、リザーバーマスクは、分時換気量によりFiO2が左右される。
★ネーザルハイフローは安定したFiO2が得られ、軽いPEEPもかかる。
★NIPPVはFiO2もPEEPも安定しているが、マスクフィッティングに苦労するかも。
★人工呼吸器はFiO2は安定しているし、高いPEEPもかけられる。しかし侵襲的。
★VV-ECMOは、患者さんの肺を介さずに酸素化を行っている。
References
- Paul L M. “The ICU Book 4th edition”. Lippincott Williams & Wilkins. 2013
- 小尾口邦彦.「ER・ICU診療を深める 救急・集中治療医の頭の中」. 中外医学社. 2013
- Kevin D et al. Respir Med. 2009; 103(10): 1400-5
- Rachael L P et al. Respir Care. 2011; 56: 1151-1155
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